安全保障貿易管理体制の整備のポイント


企業として輸出の国際ルールに参加し、不正な輸出を防止しつつ、自社の貿易を的確に実施するためには、貿易の担当者のみが安全保障貿易管理を理解していれば良いというものではなく、会社組織として取り組んでいく必要があります。

 

そのためには、内部規定を整え、従業員を教育し、監査によって内部規定が遵守されているか確認する体制を作る必要があります。

 

そして、この安全保障貿易管理体制を上手に整備するには、3つのポイントがあるのです。

 

1)組織の横方向または縦のつながりによる、人を変えての多重チェック体制2)安全保障貿易管理を行う部署が公正な判断を行えるための独立性の確保

3)権限と責任を明確化すること

 

それぞれご説明いたします。

 

1)組織の横方向または縦のつながりによる、人を変えての多重チェック体制安全保障貿易管理の体制は、組織内の個人に頼る体制であってはいけません。

その個人が異動や退職をしてしまうと、安全保障貿易管理がうまく機能しなくなるからです。また、取引の承認/不承認や取引相手の確認も担当者一人で行うのではなく、上長が確認し、責任者が最終判断を下すようにするなどの複数の目による確認体制で不正やミスを防ぐようにしましょう。

 

2)安全保障貿易管理を行う部署が公正な判断を行えるための独立性の確保安全保障貿易管理を行う部署は、会社の取引に対する確実なチェックを行う為、独立性を確保する必要があります。相手が貨物を不正な目的で使用する可能性があるなど、取引を認めるべきではないような事情がある場合には、会社の利益に反してでも不正な取引を止める判断を行う事になります。その事によって安全保障貿易管理の部門が不当な扱いを受け、組織的な圧力で正しい判断が阻害さるといった事がないようにします。また、逆に特定の営業部と親密になって甘い判断がされるという事も防ぐ必要があります。

 

3)権限と責任を明確化すること多重チェック体制を整えるためには、その組織内部の、誰が、どのセクションで、何を実施するのかをルール化する必要があります。安全保障貿易管理部門だけではなく、営業部、物流部門、資材調達部門などが一丸となって取り組む必要があります。

例えば、物流部門での貨物梱包時に、契約書や通関用の書類上の製品型番と、実際の貨物の製品型番が違うというような異常が認められた場合には、物流部門の権限で、まずは出荷を止められるような仕組みを作る必要があります。

安全保障貿易管理体制の管理方法


会社組織において、安全保障貿易管理を的確に行う為には、個人に依存する貿易管理ではなく、様々な部署や担当が一丸となって管理体制を構築し、不正な輸出を防ぐ必要があります。

 

この安全保障貿易管理の体制には、その業務をどのように行うかによって、2種類が考えられます。

一つは、取引審査や承認などに関する権限を一か所の安全保障貿易管理部に集中させて行うタイプで、案件の少ない企業では、情報を管理しやすく、効率的な安全保障貿易管理が行えます。短所としては、多角的な経営を行っている企業や、事業所がいくつもある企業にとっては、事業部に適した管理が困難になる場合がある事や、判断に時間がかかるなどのデメリットもあります。

 

もう一つは、事業部ごとに安全保障管理部を置き。リスクの高い取引については、中央の安全保障貿易管理部門で判断するなど、権限と責任を分散するタイプの管理体制です。

分散管理型の安全保障貿易管理体制は、集中管理型の安全保障貿易管理体制と比較して、事業部ごとの事情に合わせた細やかな管理体制を作り出す事ができる反面、全社共通の貿易管理が困難になるなどのデメリットもあります。

また、権限が中央から分散されている分、業務の効率を追求した結果として管理のゆるみも発生しやすいので、定期的にチェックと指導を行っていく必要があります。

安全保障貿易管理の管理形態とは?

安全保障貿易管理を的確に行う為には、個人に依存した貿易管理ではなく、組織として貿易管理を行う必要があります。

そして、組織として安全保障貿易管理を行うためには、責任体制と管理形態をはっきりさせる必要があります。

 

今回は安全保障貿易管理の管理形態について説明いたします。

 

安全保障貿易管理の管理形態は、中央に権限を集中させる中央型と、各事務所に権限を分散させる分散型が考えられます。

ただし分散型の形でも、最終的に組織を統括するのは中央の管理部門となります。

 

また、管理形態の一つとして、安全保障貿易管理委員会を設置して、そこで組織としての意思決定を行う事も可能です。委員会を設置する場合は、その委員会の業務を明確化しておきましょう。

 

そしてどのような場合に委員会が開催されるのかのルール造りも必要になります。

委員会が開催されるタイミングとしては、
以下のようなタイミングが推奨されます。

1)外為法などの関係法令が改正となったタイミング

2)行政から新しい通達などが出たタイミング

3)審査について疑義があるような場合

4)海外への輸出状況について報告を受ける必要がある場合

5)監査の結果の報告を受ける必要がある場合

6)その他、安全保障貿易管理についての情報を入手した場合

 

委員会の業務がスムーズに実行されるには、総務部や法務部、監査部などの協力が必要となるでしょう。

安全保障貿易管理における需要者等の確認について

安全保障貿易管理においては、貨物の輸出先である需要者が一体どのような組織・人物なのかという事を確認する作業は、大変重要な作業となります。

 

取引の相手である需要者が、いわゆるテロ組織と繋がりがあったり、大量破壊兵器等の開発に関与しているような組織であったりすると、外為法上の責任を問われるばかりでなく、社会的な制裁を受けるなど、企業として回復の困難な損失を発生させてしまう事になります。このような事態を未然に防ぐために、組織内に需要者をチェックするための、具体的な審査基準を設定して社内での安全保障貿易管理を実施する必要があります。

 

確認の方法としては以下のような方法が考えられます。

1)大量破壊兵器キャッチオール規制に基づく客観要件である需要者要件に該当するかどうかの確認

 

輸出令別表第1の16項の貨物や外為令別表の16項の技術については、輸出令別表第3に掲げる地域以外の地域を仕向地や提供地にする場合に必要となります。

2)包括許可を使用する場合の需要者等の確認

 

包括許可は、当該貨物や技術の需要者・利用者によっては、包括許可の効力を失う場合もあるため、確認が必要となります。

 

3)自主管理のために必要となる需要者等の確認

 

取引の可否を自主的に判断するために必要な情報として、独自に需要者の確認を行う必要があります。具体的な確認事項をチェックシート化するなどして対応すると良いでしょう。

安全保障貿易管理における出荷管理・技術提供管理の注意点


取引相手のチェックや貨物の使用方法などの様々なフローを経たあとは、最終段階のチェックとして、出荷管理・技術提供管理があります。

 

どちらも、外為法・安全保障貿易管理上、輸出が規制されている貨物や技術が、誤って提供されてしまう事を防止するための最後の防波堤になります。

 

最終段階のチェックとしては、以下のようなポイントに注意をして確認を行います。

1)倉庫からの出荷や、あらゆる形での技術提供の前に該非判定や取引審査等が実施されていることを確認すること。

2)これから出荷する貨物や提供する技術が、書類に記載された内容と同一であるかどうか確認すること

3)輸出許可証等の通関書類の準備

4)問題が発生した場合は、輸出管理部門に報告し、指示に従うこと。

 

貨物の出荷の際には、工場の出荷部門だけでなく、倉庫や梱包、運送、通関部門を含めた総合的な出荷管理体制が重要となります。

 

ただし、単体の貨物の場合と、設備やプラントなどを出荷する場合とでは管理内容が異なる場合がありますので、それぞれに最適な管理内容を定める必要があります。

 

企業が輸出を行う上でなぜリスクマネジメントが必要なのか?

日本の外為法では、外国との取引や貿易は原則的には自由で、国の介入による規制は必要最小限で行う必要があるとされています。

しかし、その一方で安全保障貿易管理では、輸出する貨物や技術に対する全責任は輸出者にあるとされ、例え外部メーカーの製品であってもその責任を負う事になります。

仮に法令上の責任を回避できたとしても、道義上の責任や社会的責任を問われるというような事になれば、容易には回復できない企業の信用の失墜という事態も発生する可能性があります。

このようなリスクを、企業として上手に回避するためにも、安全保障貿易管理の内容や意味をしっかり理解した上での管理が必要になります。責任者のみならず、関係部署の社員の教育と理解も必要です。

また、米国では米国からの輸出のみならず、再輸出に対しても規制をかけているため、その対応は十分考慮する必要があります。

法令上の責任が例え生じなくても、企業の自己防衛という観点から、適切な判断を行えるような体制を整えていきましょう。

該非判定の結果はどのように管理すればよいですか?

安全保障貿易管理では、輸出令別表第1や外為令別表のリストに掲載されている貨物や技術について該非判定を行い、該当する場合には経済産業省の許可を取らなければならないとされています。
該非判定は輸出者の責任において行われるため、不正な輸出を防止するためにも、該非判定の結果は正しく管理される必要があります。

では、自社の製品や技術の該非判定を行った結果は、どのように保管しておくのがよいのでしょうか?

判定した結果は、再度同じ貨物や技術を提供する時に備えて会社の内部で管理される事になりますが、以下の点に注意を払うようにしましょう。

1)法改正・政令や省令の改正があった場合は漏れなく該当する該非判定データを抽出できるようにしましょう。
2)権限を持つ社員以外がデータを改ざんすることがないような仕組みを作りましょう。
3)商品の引き合いがあったときには関係者がいつでも閲覧できるようにしましょう。

法改正や政令省令の改正は、毎年のように行われます。
許可申請の直前になって該非判定が改正に対応していなかったという事がないように、こまめにデータメンテナンスをしましょう。

企業の安全保障貿易管理の取引審査で審査から除外できる取引とは?


輸出先の外国企業から引き合いを受けた場合、対象貨物と技術の該非判定、需要者の確認、用途の確認を行い、取引審査を実施します。

しかし、全ての取引について取引審査を行う前に、審査から除外する取引や審査を要するまでもない取引を決めておく方法もあります。

例えば以下のような、明らかな国内取引の場合については、輸出される可能性はないと考えられるため、取引審査からの除外が検討できます。

1)国内でしか使用できない仕様のもの
2)自社社員や自社技術者が直接顧客の所在地まで出向き、貨物の設置を行う場合
3)国内に存在する工場などに納品し、そこで加工されたり使用されたりすることが明らかな取引

また、あらかじめ禁止顧客リストを作成しておき、該当する場合は引き合いを断るという方法もあります。

輸出する企業に管理義務が発生するのは、直接の輸出のみとなります。
しかし、自主管理の一部として、間接貿易の可能性がある国内取引についても注意を払う必要があります。
どこまでの取引を管理するかは、企業の自主判断で行うこととなりますが、国内取引であっても、用途が不明な点がある引き合いについては取引審査の対象として管理するのが望ましいでしょう。

企業内の取引の最終判断について


取引先から取引の申込を受けた営業部門は、対象の貨物や技術がいずれも非該当にあたり、かつ、その取引の用途や需要者の確認において下記のいずれにも該当していない事が確認された取引でない限り、上位部門である安全保障貿易審査管理部門に、取引審査の申し込みを行うといった体制を取るようにしましょう。

1)輸出令別表第1の16項貨物又は外為令別表16項技術で、キャッチオール規制の客観要件に該当するような場合
2)輸出令別表第1の16項貨物又は外為令別表16項技術で、核兵器等の開発や核兵器等開発等省令の別表に記載された行為に用いられる事になると知った場合
3)経済産業省や自社で管理している禁止顧客リスト・懸念顧客リストに取引先が掲載されている場合
4)新規の顧客や、長期間取引のない顧客との取引を行う場合であって、その取引が安全保障管理部門の定めた項目に該当する場合

なお、これらの取引の判断のフローに関係なく、経済産業大臣から輸出には許可を取るようにとの通知が来る場合があります。(インフォームド通知)
この通知を受けた場合は、すみやかに安全保障管理部門に連絡をとり、対応する必要があります。

審査の申込を受けた安全保障管理部門では、情報をもとに取引の審査を行います。
営業部からの情報を100%で審査するのではなく、直接、経済産業省のホームページの確認や、取引先の企業ホームページの確認をするようにしましょう。
なお、最終判断を行う責任者は、原則、代表取締役か取締役の方である必要があります。
それ以外の方が責任者になる場合は、輸出取引についての権限の委任がなされている必要があります。